しば塾の世界史日記

世界史についていろいろ書いていこうと思います。

なぜ肺と足は生まれたのか?〜4億年前に追い詰められ進化した我々の先祖たち

なんか最近弱くて追い出された奴がその後強くなってかつて追い出した奴らを見返す…みたいな話が流行っているじゃないですか、なので私もこれに乗じてなんかそんな感じの歴史的な出来事あるいは人物について書こうと思ったんですけど残念ながらあまりおもい浮かばなかったんですね。というのもムガル帝国みたいに追い出された奴が新天地で大いに発展する例とか韓信みたいにあまり後に新たな地でかつての主君を見返す話はあるんですけどその両方を兼ね備えた例は少ないんですよね。

ですが生物の進化の歴史を見るとこれとピッタリ一致することがあったんで今回は今までと大分違った内容ですがそれについて書いていきたいと思います。

※この記事は話として面白くするために所々改変しています、もしこれを機に古生物に興味を持ったら是非ご自分でしらべて見てください。

4億年前の地球

今回の舞台となるのは今からおよそ4億年前の地球です、この時代の地球はデボン紀と呼ばれた時代ですがどの様な状況であったかというと陸では赤道直下にユーラメリカ大陸と呼ばれる広大な大陸と南半球にゴンドワナ大陸、そしてさらに北にシベリア大陸という3つの大陸が存在していてその中でもユーラメリカ大陸はその数千万年前に3つの大陸の衝突でできたため巨大な山脈であるカレドニア山脈がが存在し、その山脈が大気の流れを大きく遮り恒常的な降雨を周辺地域にもたらしていました、

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(https://paleontology.sakura.ne.jp/w-debon.htmlより引用)

その結果この大陸は今のアマゾン川の様な巨大な河川が複数存在している状況でした。そしてこの少し前に海中から上陸を果たしていた植物は運良くユーメリカ大陸の河川と豊富な降雨によって大繁栄を遂げ大陸中を緑で覆い尽くしていました、要するに今のアマゾンを何倍にも拡大させたような環境であったと考えればいいです。

しかし違う点が存在します、それが動物がほとんどいないことです。というのも動物は植物が地上への進出を果たすまでオゾン層が薄く有害な紫外線に晒されて生き残れなかったことから進出が進まず、この時代にようやく住める様になったくらいだったので小さな虫しかいない状況だったからです。ですが海中は動物の天下で幾度かの大絶滅を経て生き残った多種多様な動物が生息していました、魚類や三葉虫、それにアンモナイトなんかがこの時代の代表的な生き物です、その中でも特に魚類が大繁栄し様々な種に分かれながら世界中の海を支配していました。

海の覇者板皮類

そんな魚類の中で特に有力だったのが板皮類と呼ばれる種類の魚です、この魚の大きな特徴は発達した顎を持っていることと鱗がないこと、そして体を鎧の様な硬い皮膚で覆っている点です。この板皮類の中でも最も強く当時の生態系の頂点に立っていたのがこのダンクルオステウスです。

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ダンクルオステウスは全長6mにも達する巨大な魚で頭部から肩帯にかけてははまるで甲冑のような硬くて重い装甲板で覆われていました。さらには強大で強靭な顎を持っていてその噛む力は440~530kgにも到達したと計算されています。ちなみに残念なことに頭部と肩以外は装甲に覆われてなかったので化石として残ってませんが後世に残った頭部だけでもその恐ろしさは十分伝わってきます。

川に追い詰められた敗者

このように当時の海には恐ろしい魚がウヨウヨしていたわけですが今回の主人公はこうした勇ましい魚ではなくこうした強力な捕食者から逃げていた生き物たちです。海での競争に敗れた魚の中には淡水である川に逃げることで活路を見出そうとした者たちがいました、それが現在の我々の先祖でもあり現在の魚の大半を占める硬骨魚の先祖でもある棘魚類です。

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棘魚類の特徴は鱗が存在することと背中に存在する大きな棘と上下の顎を持つ点です、現生の魚の先祖なだけあって似ている点が多いですね。そして棘魚類は慣れない淡水に適応しライバルのいない新たな環境で繁栄します、海が板皮類の天下であったこの時代川はこの棘魚類の天下でした。しかし棘魚類が繁栄し幅広い河川に進出するとまたしても彼らは困難に直面するのでした。

なぜ肺が生まれたのか?

海から川を遡った棘魚類はさらに上流へ、より細い川へと進出しましたがそうした棘魚類はある困難に直面します、それが酸素不足です。知っての通り熱帯雨林には乾季と雨季が存在します、そして乾季と雨季では降雨量に差があるのでそれがそのまま川の流入量に直結します。そのため巨大な河川ならともかく上流の小さな支流やあまり大きくない河川では、流入量が乾季と雨季では全く違うものとなり乾季になると水の流れが滞りがちになります。

その結果乾季になるとこうした流れの滞る川は容易に酸素不足に陥ってしまい新たに入ってきた棘魚類を苦しめます、棘魚類はより多くの酸素をどうやって得るかという難題を解決しなければならなくなりました。そして今から約3億7000万年前川に住む棘魚類の食道の一部が肺に変化して大気中の酸素を呼吸できる肺魚が生まれました。より少ない酸素でも生活できる肺魚はこうしてさらに狭い河川へと進出していきます。

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こうした肺魚の中で代表すべき種は我々の先祖でもあるユーステノプテロンでしょう、ですがこうした肺魚は後にある生き物誕生で再び捕食者の脅威にさらされるのでした。

敗者の王ハイネリア

海で板皮類に負け川へと逃げ込んだ棘魚類は肺を獲得することで淡水界で大きく繁栄します、ですが淡水魚の数と種類が増えると当然捕食者と被捕食者の関係ができてきます。そして淡水界の生態系の頂点となったのがユーステノプテロンから進化した今から約3億6000万年前に誕生したこの肉食魚ハイネリアです。

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全長2.5mから4、5mにまで大きくなったと推定されるこの魚は当時の淡水魚の頂点であり8cmもの大きさの鋭い牙でユーステノプテロンなど他の肺魚を次々と捕食していました。この結果他の肺魚はハイネリアの入れない狭い川に入るものが増えていきます、そしてそうしたものの中でまた新たな進化が起こるのです。

足の誕生

ハイネリアの入れない狭い川を主な生息地にした魚たちの中である器官が発達します、それがヒレです。当時の陸上では大森林が広がっていたのは前に書きましたが、実はこの時代の樹木はまだ分解できる生き物が存在しておらず倒木などは分解されないまま川の中にあり続け特に小さい河川では流れずに多く存在していました。

その結果こうした環境に住む魚たちは移動する上で邪魔な木々をかき分けて進むべくヒレを発達させていきます、そしてそれがついに足へと発達するのです。そしてハイネリアが誕生してから間も無く発達した足を持ったユーステノプテロンの子孫たちの中で陸上への上陸を果たすものが現れます、これが魚類から両生類の進化でもあり記念すべき我らが先祖の初上陸の時でした。この時期の代表的な両生類がこのアカントステガと

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このイクチオステガです

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なぜ陸に上陸したのか?

さてここからは以前私が見た説と私の推論も入るので流してもいいのですがなぜ四肢を持った魚は陸上へと進出したのでしょうか?その鍵となるのが三日月湖です。三日月湖とは河川が蛇行した結果その一部が切り離されてできる水域で以下の図にようにして成立します。

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ともあれこうしてできた三日月湖はかなり孤立した水域であるので流れが澱んで酸素不足になる上次第に蒸発して陸地になってしまいます、ではこうした水域に取り残された生物はどうなるのでしょうか?酸素不足による死を待つかそれを生き残れたとしても干上がって死ぬしかありません。ですがただ一つ生き延びる道があります、それが陸への進出です。肺を獲得しある程度陸で暮らせる四肢を持った肺魚三日月湖の蒸発という極限の状態の中で生き延びるために他の水域へと移動すべく陸地へと上がったのではないでしょうか?実際この時期の両生類の化石を見ると同じ種でそう遠く離れてない地域に住みながら顎や体の大きさでバラバラな個体群同士のものが見つかります、これは孤立した三日月湖で何世代か進化したためと考えるのが自然ではないでしょうか?

そして何世代か経った後いよいよ限界に達した彼らは未知の世界への第一歩を踏み出したのかもしれません、そう考えると納得することがあるので個人的にはこれが陸上へと進出したきっかけじゃないかと思います。

板皮類のその後と海に戻った肺魚たち

こうして陸上へと進出した両生類は後にカエルやサンショウウオ、イモリといった生物の先祖となります。それだけでなく水辺を離れより陸上へと適応すべく進化した生き物は後の爬虫類となり、ヘビやワニ、トカゲと言った生き物へと進化しました。そしてその後一部の種は恐竜となり後の時代の生物の覇者となりその恐竜は今の鳥類の先祖となりまた恐竜とは別に哺乳類へと進化した種族は恐竜亡き後の時代に繁栄を遂げ我々人類の先祖となります。

ですが繁栄を遂げたのは海を離れた者ばかりではありませんでした、実は板皮類はその後デボン紀末期の謎の大絶滅であのダンクルオステウスを含む多くの種が絶滅してしまいます。この絶滅には謎が多いのですが特徴として海中の生き物だけやたら絶滅したこととその中でも熱帯地域の生き物が特に絶滅したことから寒冷化が原因ではないかとされています。ともかくこうしてかつて自分達の脅威であった種が消えた淡水魚たちは故郷である海へと帰っていきます、とはいえ彼らにライバルがないわけではなく競合種との過酷な競争を生き延びなければならなくなります。

ですが海へ帰った淡水魚はこの戦いを見事に勝ち抜きます、その理由としては浮き袋を獲得したからです。淡水にいた頃に肺を持っていた魚たちは海へと帰った後不要となった肺を浮き袋へと変化させます。

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浮き袋とはその名の通り空気の入った袋ですがこの器官のお陰で海へと出戻った淡水魚、現在の硬骨魚は大繁栄します。魚は密度が水より思いため筋力を使って上がりながら泳がねばなりません、しかしこの浮き袋は空気を溜めることで無駄な力を使わずに浮かぶことができます。この浮き袋があるとないとでは運動面で大きな性能の差がでてしまいます、そして無駄な力を使わずに泳げた硬骨魚は浮き袋を持たない他の魚を駆逐し現在ではサメやエイなどを除くほぼ全ての魚はかつて淡水に追い詰められた棘魚類を先祖とする硬骨魚となっています。

最後に

今から4億年前強大なライバルに追い詰められた我々の先祖は淡水に逃げ込み、さらに細い川へと逃げ込み陸への上陸を果たしました。進化は強者の中では起きません、なぜなら強者はそのままでも強いがために進化する必要がないからです。これはやや強引ですが人間社会でもこれは当てはまることがあるのではないかと思います、たとえ競争に負けたとしてももし多少でも再起できるなら新たなスタートを踏み出し勝つことができるかもしれません。少なくとも我々の先祖はそうして生き残ってきました、でしたらその子孫である我々もできないことはないと思います。

それでは今回はここまでまた次回。