しば塾の世界史日記

世界史についていろいろ書いていこうと思います。

遊戯王と古代エジプト、闇遊戯のモデルになったファラオは誰か?なぜ闇遊戯は現世に留まっていたのか?

以前遊戯王の神のカードに関して書きましたがあれが意外と反響あったので今回もまた遊戯王に関することを書いていきたいと思います。さて遊戯王という作品を全く知らない方はこの漫画のことをカードゲームの漫画だと思っているでしょうがこの作品は単なるカードゲームの漫画ではありません、遊戯王の主人公は武藤遊戯と彼の第二の人格である闇遊戯と呼ばれている存在ですがこの闇遊戯はかつてとある事情で自分の名前と記憶を失った古代エジプトのファラオでありそして遊戯王全体としてはこの失った名前と記憶を取り戻すまでの戦いを描いているのです。さてここまで遊戯王のストーリーの大まかな解説をしましたがではこのファラオには実在するモデルとなった人物がいることをご存知でしょうか?また実はこれ以外にも遊戯王古代エジプトの史実をモチーフにしているであろうストーリー展開が結構されています、というわけで今回はこれについて書いていきます。(※一応作品のネタバレに繋がることを書いているのでまだ遊戯王を見たことがない人はブラウザバックを推奨します)

ツタンカーメンとアテム

遊戯王の主人公武藤遊戯の第二の人格である闇遊戯が実は古代エジプトのファラオであることをさっき書きましたがこのファラオの名前がアテムです、そしてこのアテムのモデルとなったであろうファラオがあの黄金のマスクで有名なツタンカーメンです。

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アテムが古代エジプトのどの時代のファラオであったのか実はちゃんとした公式設定がありそれによると第18王朝(紀元前1570年から紀元前1293年まで)という時代のファラオらしいです、この第18王朝というのは何千年とある古代エジプトの歴史の中でも繁栄を極めていた時代であり後の歴史に残るような数多くのファラオを輩出した時代であります。そしてツタンカーメンもまたこの第18王朝期のファラオなのです、もちろんこれだけならモデルになったかどうかなんとも言えませんがツタンカーメンとアテムには様々な共通点や関連性があるのです。

まず作中の闇遊戯ことアテムは10代でファラオに即位していて若くして亡くなっていますが、ツタンカーメンも10代で即位し若くして亡くなっています。またツタンカーメンといえば黄金のマスクに代表されるように黄金の副葬品が有名ですが遊戯王作中のキーアイテムでアテムと関連の深い千年パズルをはじめとした千年アイテムもまた黄金でできています。

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(千年アイテム一覧、左上からそれぞれ千年秤、千年眼、千年錠、千年タウク、千年錐(千年パズル)、千年ロッド、千年リング)

そして何よりアテムという名前の由来から考えるとアテムのモデルがツタンカーメンと確定してしまうのです、遊戯王の作者である高橋和希先生によるとアテムの名前の由来はアトン神という神から来ているみたいです。このアトン神はどう言った神なのかというとツタンカーメンの父であるアメンホテプ4世が神官勢力に対抗するために新たに作り出した神で世界初の一神教の神です。

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(アトン神、太陽を象っていて極めて象徴的な姿をしている)

この宗教改革は結局失敗に終わり次代のファラオであるツタンカーメンの時代にはアトン神への信仰は消えるのです第18王朝でアトン神と関連があるファラオはアメンホテプ4世とツタンカーメンだけなのです(一応両者の間にスメンカクーラーという人物がファラオになってますが在位期間が2年にも満たない上に記録もほとんど残ってません)。つまり第18王朝のファラオでアトン神を知っているという史実から考えるとアテムに該当するファラオはこの2名のみでありその上で共通点がある人に絞るとアテムのモデルとなったファラオはツタンカーメンでほぼ確定してしまうのです、そして何より重要なのがツタンカーメンとアテムにはともに真の名前を長い間抹消されていたという共通点があるのです。

なぜ闇遊戯は最後まで成仏できなかったのか

どういうことか説明するためにまずは古代エジプトにおける名前の重要性から書いていきます、古代エジプトにおいて人間の霊魂は5つの要素で構成されていると信じていました。その5つとはイブ(心臓)、シュト(影)、レン(名前)、バー(魂)、カー(精霊)です、そしてそのいずれか一つでも欠けたら死者はあの世で復活できない簡単にいうと成仏できずにいると考えていました。なので古代エジプト人はこれらを保持すべく様々な努力をしていたわけですが逆にいえば名前を抹消すれば死んだ人間をあの世で復活できなくさせることができたのです、なので古代エジプトでは死刑より重い罪として故人の名前を石碑などの記録から完全に抹消しその人を冥界で復活できないようにするというものがありました。遊戯王という作品の終盤で闇遊戯はアテムという消されていた自身の名前を取り戻し戦いの儀という名場面を経て表遊戯とデュエルで戦い冥界へ旅立つという流れがりますが、彼がこの場面まで冥界に行けず現世に留まっていたのは要するに自身の名前が忘れ去られていて霊魂が不完全であの世に行けなかったからです。

そして先程重い刑罰として名前の抹消があると書きましたが実はツタンカーメンもまた名前が抹消されていたファラオであるのです、ツタンカーメンの死後王統は一時途絶え結局その時の将軍ホルエムヘブがファラオになりますが、彼は自分の支持基盤を確立させるためにも神官勢力からの支持を得ようとアトン神の宗教改革を行なって神官の反発を買っていたアメンホテプ4世やその子孫であるツタンカーメンなどの名前を全て抹消してしまいます。ツタンカーメンの黄金のマスクは20世紀になって発掘されましたが実はツタンカーメン以外のほぼ全てのファラオの墓は何千年も前に既に盗掘されていました。ではなぜツタンカーメンの墓だけ無事だったのかというと名前を完全に抹消されてしまいその存在を忘れ去られていたからです。つまりアテムとツタンカーメンは死後名前が忘れ去られていたという面でも共通しているのです、ここまで一致しているとアテムのモデルはツタンカーメンと見て間違いないでしょう。

ここからは遊戯王見たことない人には通じないでしょうから見てない人は飛ばして結構ですが、バーとかカーとかてっきり漫画の適当な設定だと思いきやちゃんと古代エジプトの死生観を基にしているんですね、初めて知った時は驚きました。あとアテムが自分の名前を取り戻した瞬間ゾークに勝てた理由もご都合展開かと思いきやちゃんとした理由があることが分かりますね、名前を取り戻したことでアテムはファラオとして完全に復活し古代エジプトにおいてファラオはホルスの化身と呼ばれるように神と同等の存在とされていたので要するにアテムは名前を取り戻すことで神の力を取り戻してその結果勝つことができたというわけですね。

第18王朝と第19王朝の間

さて先程アテムのモデルとなったファラオがツタンカーメンであることを書きましたがこの話をさらに補強するのがライバルである海馬瀬戸の前世神官セトに関する話です。セトはアテムがファラオの時に神官のトップに就いてかつアテムの従兄弟でもありライバルでもあるという存在です。このセトにはアテムとツタンカーメンほど実際の歴史とリンクしている存在ではないですが、彼に関することで第18王朝末期の歴史とリンクしていると考えられる描写は結構多いです。

まず作中セトはアテムと対立することになりますがこれは神官勢力と王権の争いであり第18王朝末期の様子と全く同じです。先程も書きましたが第18王朝ではアメンホテプ4世が王権を拡張しようとアトン神を中心とする宗教改革を行いますが失敗してしまい神官勢力と王権の争いを引き起こしてしまいました、神官のトップであるセトとファラオであるアテムの争いはここをモチーフにしている考えていいでしょう。またセトは最後に死にゆくアテムから指名を受けて次のファラオになっていますがおそらくこれに元になった史実があります。第18王朝がツタンカーメンの後将軍であるホルエムヘブにファラオの座が奪われたことを話しましたが彼は後継がいなかったのでその死に際して親友兼腹心であるラムセス1世を後継者に指名し彼が次の王朝である第19王朝を創始します、ファラオがその死に際して他の人物を次のファラオに指名するという流れはここら辺を元にしていると言えます。

まあもちろんこれだけ書くと単なる偶然の一致のような気もしますがこの後の展開を考えるとあながちそうとは言い切れません。ラムセス1世は在位1年ほどで死亡し彼の息子が次のファラオとなります、そしてそのファラオの名前がセティ1世なのです。セティ1世という名前を聞いただけでなんとなく分かるでしょうが彼の名前はエジプト神話の神の一つセト神から来ていて神官セトとおそらく同じ由来を持っています、ここら辺を見ると遊戯王の終盤部分は実際のエジプト第18王朝末期から第19王朝にかけての歴史を下地にしていると言っていいでしょう。

余談ですがセトとセティの名前の由来となったセト神はエジプト神話においては兄であるオシリス神を殺して遺体をバラバラにした悪役でセティ1世に至るまでの数千年間誰もこの神を自分の名前に冠そうとしてませんでした、しかし一方で武の神であることから軍人での信仰はあり軍人出身のセティ1世が自身の名前に選んだのはここら辺の事情からです。遊戯王の劇中で海馬瀬戸や神官セトはブルーアイズホワイトドラゴンという攻撃力だけで考えると最強のモンスターを中心に強力なモンスターを使うパワータイプのデッキを使っていますが、あのようなデッキを使っていたのはここと関係しているのかもしれません。またたびたび戦っていたライバルで主人公の武藤遊戯の使う神のカードがセト神に殺されるオシリス神を元にしたオシリスの天空竜であるのもここら辺を下地にしていると言えるでしょう。

終わりに

さてここまで遊戯王古代エジプトに関することを書いてきましたがいかがでしたでしょうか?もちろんこの内容はあくまで私が古代エジプトの歴史と作中の描写から書いたもので公式設定でもなんでもないです。ただ漫画やアニメでも設定をよく見ると史実を基にしているようなものがある例として書きました、皆さんの好きな作品も設定の一部の由来を調べてみると裏にある壮大な歴史が見えてくるかもしれませんもし機会が有れば一度調べてみると面白いことがわかるかもしれませんよ。それでは今回はここまでですまた次回。