しば塾の世界史日記

世界史についていろいろ書いていこうと思います。

カードとなった神、遊戯王とエジプト神話。

皆さんは『遊☆戯☆王』という漫画作品をご存知でしょうか?この作品は元々主人公である武藤遊戯と彼のもう一つの人格である闇遊戯が悪人を独自のゲームで成敗していくという内容だったのですがいつのまにかカードゲーム漫画になって大ヒットした作品です。そして作中に出てくるカードゲームを元には現在世界で一番有名なトレーディングカードゲームである「遊戯王オフィシャルカードゲーム」が誕生したわけですがそんな『遊☆戯☆王』の原作ではキーアイテムとして神のカードと呼ばれる3枚のカードが登場しています、それぞれエジプト神話に関係する名前を持っていて召喚するのは難しいですがその名に相応しいとんでもない効果を持っています。というわけで今回はそんな遊戯王に登場する神のカードとその元となったものについて書いていこうと思います。

オベリスク巨神兵

まず最初に紹介するのは「オベリスク巨神兵」です

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このモンスターは3枚の神のカードの中で最も早く作中に登場したカードであり主に主人公のライバルである海馬瀬戸が使っていました。神のカードは自分の場にいるモンスターを3体墓地に送らないと召喚できませんがその手間に見合うだけの能力を持っていて元々の攻撃力が4000という作中のモンスターではトップであることに加えて神のカードに共通の効果としてトラップカードと他のモンスターカードの効果を一切受け付けずマジックカードも1ターンしか効果を受けません、さらにこのモンスター独自の効果として自分のモンスターを2体犠牲にする事で攻撃力が無限となって相手に攻撃できるという狂ったものを持っています。そんなとんでもないカードであるオベリスク巨神兵ですが実は3枚の神のカードで最もエジプト神話からかけ離れた名前の由来を持っています。

 

というのもこのカードの元ネタとなった「オベリスク」とは神の名前でもなんでもなく下の図のような尖塔なのです、オベリスク古代エジプトで神殿などに作られた記念碑です、もちろんエジプト神話

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とは大いに関係がありオベリスクはエジプト神話における世界の始まりの地である原初の丘ヘリオポリスのベンベンを模式化したもので側面には王の名や神への讃辞がヒエログリフで刻まれ、太陽神と共に王の威を示す象徴とされていました。しかし実はこのオベリスクという名称はなんとギリシャ語なのです、オベリスクの由来となったのはギリシャ語のobeliskos(串)で古代エジプトではこの建造物のことを「テケン(保護・防御)」と呼んでいました。つまり「オベリスク巨神兵」はエジプト神話とは直接関係のない名前の由来を持ちそればかりかギリシャ語に由来を持つというわけです、『遊☆戯☆王』作中で神のカードは古代エジプト人の作った石板をほぼそのままコピーして作ったという設定ですがこの石板を作ったエジプト人達は一体何者だったのか謎が深まるばかりです。

これは余談ですがこのオベリスクは現在その多くがエジプトにはありません、というのも巨大で目立ち珍しいオベリスクは戦利品の対象として掠奪されやすく特にローマ帝国の時代に多く持ち去られました。なので現在30本残っている古代エジプト製のオベリスクの内エジプトにあるものはわずか7本のみです、またエジプト国外にあるオベリスクの多くはイタリアのローマに集中していてそこだけでなんと13本もあります。

オシリスの天空竜

2つ目に紹介するのは「オシリスの天空竜」です

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このカードは2番目に登場した神のカードであり作中では主に主人公である武藤遊戯(正確にはもう一つの人格の闇遊戯)が使っていました。オベリスク巨神兵と同じくトラップ、モンスターカードの効果をを受け付けずマジックも1ターンだけしか受け付けないと言う効果に加えてこのカードは攻撃力が手札の枚数× 1000になると言う特殊な攻撃力の持ち方をしていいいます、つまり手札が0枚なら攻撃力はゼロですが逆に言えば攻撃力を手札の枚数の分だけいくらでもあげることができると言うとんでもない効果を持っていますもちろんデッキの枚数に制限があるので無限にはなりませんがそれでもとんでもない攻撃力に簡単になれます。それに加えて特殊な効果として相手のモンスターの攻撃力、守備力を問答無用で2000下げもしも2000下げた後の数値が0以下になった場合そのモンスターを破壊すると言うこれまたブットんだ効果を持っています。そんな「オシリスの天空竜」ですがその元ネタとなったのはエジプトの冥界の神「オシリス」です

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見ての通り竜とは一切関係ない神ですね、このオシリス神は冥界の神と言いましたが当初オシリスは冥界の神などではなく植物の神であったそうです。彼の体が緑色なのはそれが理由ですね、エジプトではナイル川の氾濫によって植物が全滅し水が引くと再生するのですがオシリスはその一連のサイクルの象徴でありました。それが次第に死と再生の神へと変化していき冥界の神となっていったのです、とまあ神話においてこのような変遷を経たオシリスですが実はこのオシリスは現実世界の古代エジプトの歴史においても重要な意味を持ちました、というのもオシリスは歴代王朝のファラオ(王)が神官に対抗し自身の権力を高めるために利用した歴史があるからです。

どういうことかというと古代エジプトでは主神であるラーが一番信仰されていましたがそれだけにラーを祀る神殿の神官達の影響力は非常に大きく政治にも度々口を出していました。そこで歴代のファラオはオシリスの信仰を盛んにすることで神官達の影響力をそごうとしました、というのもオシリスは冥界の神であるため現世には口出しをしないという解釈がされていたことから神官達の影響力が及ばずまた同様の理由から他のどの神を信仰している人でも祀って問題ないとされていました。しかも生ける神であるとされたファラオは死後オシリスと同一になるつまりオシリスは死後のファラオとされたのでオシリスの崇拝はファラオへの崇拝にも繋がったのです、それに加えてオシリスは冥界の神であることから盛んに信仰することで天国に近づけると信じられていたので民衆としても信仰に値する魅力があったのです。そしてこの試みは成功しそして時代が経つにつれオシリスへの崇拝は増一方でラーへの崇拝は落ち着いてしまいついに両者は同じくらい重要に扱われるようになりました、これによって王家は神官の勢力を削ぎさらに自身の権威を上げることができたのです。つまりオシリスは最もファラオと関係が深かった神の一つであると言うわけですね、これは余談ですが『遊☆戯☆王』の作中で「オシリスの天空竜」をよく使っていた闇遊戯は古代エジプトのファラオの魂が時を経て再び現れた姿とされていましたがファラオとけっこう関係ある神が元になったカードを使うことになんだか感動を憶えます。

ラーの翼神竜

3体の神の中で最後に紹介するのが作中において最強の神のカードである「ラーの翼神竜」です

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このカードはとにかくとんでもない効果だらけでまさにチートとしか言いようがない効果をを多数持っています、まず「ラーの翼神竜」は最上位の神のカードとされているのでマジック、トラップに加えて「オベリスク巨神兵」や「オシリスの天空竜」を含むモンスターカードの効果を受け付けません。そしてこのカードの攻撃力は召喚する際に墓地に送った3体のモンスターの攻撃力を合計させたものとなりますがただ召喚しただけでは

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このように丸い物体として現れるだけで何もできません、実はこのカードのテキストは神官文字(ヒエログリフ)で書かれていてそこに書いてある内容を口に出さないと攻撃できないというわけのわからない仕様を持ってます。そしていくら3体のモンスターを犠牲に召喚しても神官文字を読める者がこのモンスターのコントロール権を得るため仮に召喚しても自分が読めず相手が読めた場合ただただ3体のモンスターを無駄にするだけで終わるのです。とまあこのように色んな意味でぶっ飛んでいるカードですがこのカードの真の恐ろしさはこのカードが特殊召喚された際に効果を発揮します。このカードがモンスターを墓地に送らずなんらかの方法で特殊召喚されると

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このような不死鳥モードとなり以下のような効果を与えられます

・自分のライフポイントを1残すように払う事で、このカードの攻撃力・守備力は支払った数値だけアップする。
またこの状態で他のモンスターを生け贄に捧げることで、そのステータス分の数値をラーの攻撃力・守備力に加算することもできる。
・1000ライフポイントを払うことで、相手フィールドに存在するモンスターを耐性を無視して除去する。

とまあとんでもない効果です、特にライフを攻撃力に変えるの部分は凶悪で簡単に相手のライフをゼロにできる一撃を放つことができるものになってます。さてそんな「ラーの翼神竜」の元ネタとなった神はエジプト神話における最高神である太陽神ラーです。

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ラーはエジプト神話における最高神であり最も盛んに崇拝されていました、先程話たようにラーの神殿の神官達が政治に口を出せるほどの権威を持っていたのです。しかしラーへの崇拝は時代とともに衰えていきます、先程話したように歴代のファラオがラーへの信仰をあまりよく思ってなかったというのもありますが最大の理由はエジプトの首都が移ったことによるものです。

古代エジプト古王国時代、中王国時代、新王国時代の大きく3つに分類されそれぞれの時代の首都は全く違う場所にあります。そしてエジプトが中王国に入ると首都はテーベと呼ばれる場所に移るのですがそれに伴ってテーベの地方神であったアメン神への信仰が盛んになり次第にその人気をを奪われてついに最高神としての地位をアメンに譲りました。その後ラーは人気のある他の神と習合しアトゥム神と習合して「ラー・アトゥム」、ホルス神と習合して「ラー・ホルアクティ」、アメン神と習合し「ラー・アメン」、アテン神と合し「アテン・ラー」となり相変わらず大いに崇拝されていましたがかつてのように固有の神として絶大な信仰を集めるということはなくりました。

これは余談ですが「ラーの翼神竜」はカードとして販売された際に原作の効果ではゲーム性が破綻してしまうような効果からか大幅な弱体化を受け全く別物と言ってもいいほど使えないカードとなってしまいました。非常に人気のカードだったのでこの弱体化はあまりにも酷いと炎上してしまい先程あげた球体と不死鳥の形態が個別でカード化されたのです、それによって原作ほどではないものの使えなくはないカードとなりました。このように最初とてつもない存在だったのにその偉大さを失い他のものと一緒になって再びある程度元の偉大さを取り戻すという一連流れはまさに古代エジプトにおける神話の変遷を再現しているようでなんだか面白いとは思いました。

光の創造神ホルアクティ

最後に紹介するのが「光の創造神ホルアクティ」です、このカードは原作の終盤に一度だけ登場したカードで主人公である闇遊戯が自分の封印されていた名前を解き放つことで召喚し勝利するという劇中で非常に重要な役割を果たしてます。

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このカードの効果は召喚した瞬間勝利するというとんでもない効果を持ってますその代わり召喚条件が異常に厳しく3体の神を召喚して墓地に送らないと召喚できません。つまり単純計算で9体のモンスターが必要でとてもじゃないですけど召喚するのが無理です、というかこんなの召喚するより神のカードで攻撃する方が早いです、まあいわゆるロマンカードってやつです。そんなホルアクティですが名前の由来となったのは先程ちらっと登場したこの天空の神ホルスがラーが習合した際の

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名前であるホルアクティです。見ての通り女神でもなんでもなくなんなら頭が隼です、またこのホルス神はオシリスの息子でありファラオはこのホルスそのものであるとされていました。そんなホルスは当初天空の神でしたがのちに様々な神と習合しさらに地平線から太陽が昇ることから太陽神としての性格も持ち合わせラーと同一視されホルアクティと呼ばれるようになりました。つまりこの神はファラオの象徴であり同時に様々な神を束ねている存在でもあるのです、まさにファラオである主人公が様々な神を使って召喚するのに相応しい由来でしょう。またこのホルスは父であるオシリスを殺したセトという神を倒す存在であると神話では書かれていますがそこら辺も『遊☆戯☆王』の主人公である闇遊戯と一致するところが多いので結構面白いと思います。

最後に

というわけで今回は『遊☆戯☆王』に登場した神のカードとそれに関連するエジプト神話について書きましたがいかがでしょうか?『遊☆戯☆王』の作中にはこのほかにも古代エジプト神話を元にしたネタや(アテムとかセトの由来)設定上の舞台である第18王朝の歴史と見比べると面白い発見がまだまだたくさんあると思います(神官とファラオが対立する話とか名前を奪われたファラオとか)。なのでもし興味を持てたらそこら辺を調べてみると面白い発見があるかもしれません、というわけで今回はここで終わりですそれではまた次回。